2012年 10月 13日
< 龍神へ >
和歌山県、龍神村。
そこに今なお残る、落人伝説に代表される「龍神」姓の由来の謎。
足を踏み入れることを拒むかのような山奥にその村はある。
今回私は初めて龍神村へと足を向けた。
<--誘-->
それはたった一つの、小さな新聞記事から始まった。
「和歌山県龍神村から初の県会議員」。
龍神村?久しく聞いていなかった名だ。
(へぇ、今まで一人も出ていなかったのかぁ。)
そんなことを思いながら、いつしか忘れていた。
それから数ヶ月、私は再び新聞で、龍神の名を目にすることとなる。
「龍神村からの県会議員、死亡。自殺か、他殺か!」
「えっ!?」
私の聞いている龍神村とは、古くから龍神一族が治めており、かなりの権力、財産を持っている。
そしてその村からの初めての議員誕生。今まで一人もいなかったことへの疑問を感じつつも、村のためにも良かったんじゃない?と思っていた。
が、今回の一件。
私のなかで急激に龍神村への関心が高まりだした。
普段は何事にもほぼ無関心である私だが、気がつけば何故だか車に乗り込み、一路龍神村へと走らせていた。
<--拒-->
龍神村へのアクセスはお世辞にもいいとは言えず、大阪からはひたすら一般道を南下するのみ。和歌山県に入り、高野山からはいよいよ山道だ。
くねくねと曲がる山道をひたすら走る。
市街地や高速道路ならまだしも、この山道を走り続けるのは相当神経が参る。標高も上がってきているようで、時おり森の間から見える景色が素晴らしい。
右手に見える川沿いをひたすら遡ると、村に着くはずだ。
ようやく看板が見えてきた。ここが入り口か。
ハンドルを脇道に向け、車を走らせようとしたその時、
キキーーーッ!!!
私は慌ててブレーキを踏んでいた。
(あれ?俺、なんでブレーキ踏んだんだ?)
周りには誰もいない。動物もいない。
しかし胸にはなにかに押さえつけられているかのような、不快な違和感を感じている。
何かに対し、無意識のうちにブレーキを踏んだようだ。
(・・・なんだ、これ?)
突然妙な胸騒ぎと不安感を感じるが、しかしここで引き返すわけにはいかない。
気を取り直し、再び車を走らせた。さらに山道が続く。
ん?
一瞬空気が変わったように感じた。ふと横を見ると随分上流まで来たようだ。
川のせせらぎがキレイ。鮮やかな色をつけつつある木々。
まてよ?何かがおかしい。こ、紅葉?そんなばかな!
いくら標高が高いとはいえまだ紅葉には早すぎるはず。
そういえば先程から感じる違和感。まるでここだけ時間の流れが違うかのようだ・・・・
ますます募る不安感を払拭するように進むと、やがて龍神温泉へと到着した。
<--真-->
車を降り辺りを見渡す。清んだ、キリッとした空気。やはり明らかに季節感が違う。
しばらく辺りを歩いたあと、もっとも古くから営まれているとされる「上御殿」を訪ねてみた。
歴史ある佇まい。資料によると1200年も続いているという。
扉開けようと手を伸ばした時、ふと脇にある表札に目がいった。
「龍神」とある。そうか、あの龍神一族が営んでいるのか。
ガラガラ・・・。
「ごめんください。」
扉を開けると玄関にはこちらを向いて正座をしている一人の老婆がいた。じっとこちらを見ている。
(うっ!なんだ?まるで私が今、ここに来る事を知っていたかのようだ。まさか。)
老婆が言う。「ようおこしやす。」
(おこしやす?なぜこの老婆は京言葉を話すのか?
古くから龍神一族はこの和歌山の山奥に住み続く一族のはずだが。)
老婆はさも当たり前のように私を奥へと迎え入れる。
戸惑いながらもついていく私が通された部屋は、窓の外からは川の流れる音が聞こえ、そよと吹く風が心地いい静かな部屋。
室内にある調度品も品格を感じる。
ほどなく老婆がお茶を持って現れた。
「どうぞおあがりやす。」
また京言葉だ。
私の正面に座り、黙ってうつむく老婆。
何を話していいのか。しばらく沈黙が続く。
「・・・あのぉ」
私が発した言葉を遮るように突然彼女が話し出した!
どこを見つめているのか、宙をさ迷うように、時々眼球をプルプルと震わせながら次々と言葉を発し続ける!
息をつく暇もないほど、お経でも唱えているかのように延々と、朗々と話し続けている!!!
呆気にとられながらも次第に彼女の話に引き込まれていく私。
彼女の口から次々と明かされる、龍神村の成り立ち、歴史、伝説と謎、運命と宿命。
例の、県会議員がこれから行おうとしていたこと、そしてなぜ死んだか。
そして驚愕の真実!
そ、そんな・・・
なんということだ・・・
いつしか私の目からは、溢れるように涙が流れていた…。
<--帰-->
響くエンジン音。
時々鳴るタイヤの音とブレーキが鳴らす摩擦音。
私は今、大阪への帰路に就いている。
龍神村。
想像をはるかに越えた真実。
老婆が話したあの話を、私は生涯誰にも話すことは無いだろう。
いや、たとえ話したとしても果して・・・。
そして、もう二度とあの村へは行くことは無いだろう。
行くべきだったのか行かざるべきだったのか。
誰が、何のために私をあそこに呼んだのか。
私にはわからない。
窓の外には龍の姿にも似た龍神川が雄大に流れていた。
※この物語はすべてフィクションです。また実際には川の名前は「龍神川」ではなく「日高川」です。
なーーんてね^^!
先日、和歌山県の龍神温泉に行ってきました^^!
温泉好きな私は、いつか行こうと決めていたところです。
とってものどかな、いいところでした~(^o^)
ここ龍神温泉は群馬の川中温泉、島根の湯の川温泉と合わせ、日本三美人の湯のひとつで
けっこうヌルヌル系のお湯。
お肌にしっとりと馴染み、すっごく気持ちよかったです^^。
文中にある「龍神」姓の方がおられるのは本当です。
老舗旅館の「上御殿」と「下御殿」の方々がそうです。
なんか、カッコイイお名前ですねー。
和歌山の山奥にあり、アクセスし辛いのも本当ですが、大阪からだとある程度は高速道路で行けます。それでも私の周りにはけっこう足を運ばれた方も多く、
やはりその魅力は相当なものです。
秋の高野山、そのついでにでも、しっとりとしに行きませんか~^^。
by revoir-dima
| 2012-10-13 00:22